株式会社Legalscape 八木田樹様 (2017年修士卒)

December 9, 2019

現在の所属と肩書

株式会社 Legalscape 代表取締役・最高経営責任者

卒業(修了)した学部(研究科)・学科(専攻)・年

2015年理学部情報科学科卒、2017年情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻修了。

現在の事業について簡単に教えてください

複雑かつ膨大な法律情報を「整理」することで、すばやく・漏れのない調査を可能とするリーガルリサーチツールの提供。

弁護士の先生方だけではなく、企業の法務部や、官公庁、学者等日本の法律を支える法律インフラを目指しています。

起業のアイデアに至るまでのエピソードを簡単に教えてください

私は、起業の最初のアイデア自体はあまり重要なものではなく、どれだけその領域で突き詰めることができるかという点が重要なのだと感じています。

私の場合は、父親が学者だったこともあり、なんとなく大学院に進学しました。大学院なので研究テーマを考える必要があったわけですが、心に決めていた絶対にやりたい研究というものが特にあったわけでもなく、ざっくりと個人的な好みとして、社会にインパクトをもたらすなにかをやりたいという方向性だけがありました。

まずは実社会への応用が考えやすい学際的な領域を探すことにして、その中で、「IT化が遅れていそう」な「法律」「医療」あたりを思いつきました。私の親戚には何人か弁護士がいるのですが、医者は全くいないということで、とりあえず法律領域でなんかコンピュータ科学的なことで研究をしようと考えたのが、起業アイデアの発端といえるのかなと思います。

私の場合、起業アイデア自体はかなり雑なところからはじまり、法律という領域は5年前の私にとって未知のものだったわけですが、技術を用いて社会によいインパクトをもたらしたいという気持ちは強く根源的なものとして常にあり、それを原動力として進んできました。技術に精通した人間が特定の産業領域に深く入り込むことで、技術とその業界のリアリティの両面を理解しているからこそ、単なる技術の押し付けに留まらない、業界や社会にとって価値のあるインパクトをもたらせると考えています。

その意味で、法律業界にコンピュータ科学の技術をかけあわせるということ自体は単なる思いつきで、誰でも思いつくようなものです。しかも、私個人より優れた自然言語処理の研究者や、弁護士の先生方は数え切れないほどいらっしゃいます。一方、法律xITという思いつきを起点としてここ5年間で培ってきた、技術・業界への理解・業界内の人脈等、法律業界に技術変革をもたらすために必要なさまざまな要素の総合値(=掛け算後の値)については、私やLegalscapeのメンバーが群を抜いていると思います。

「掛け算」の部分はイメージとして捉えていただければと思うのですが、自分の原動力とある程度合致したテーマで、とにかく突き詰めていくことが重要なのだと思います。

起業後、現在の主力アイデアに至るまでの変遷やピボットのエピソードがあれば簡単に教えてください

これは、一言で言えばPMFする、あるいは上記の文脈で言えば、単に技術を一方的に押し付けるのではなく、業界のリアリティを理解してサービスを作る過程についての話かと思います。 特定のエピソードがあるわけでもなく、変遷自体をつぶさに書けるわけでもないので、質問自体への直接的な答えでなくて恐縮なのですが、抽象的に述べると、手持ちの情報の中で最良の選択をし続けてきた、いうことになると思います。

あるタイミングで、誰も思いつかなかったすごいアイデアを思いついてしまってそれが主力のアイデアとなったわけではありません。

意識すべきポイントは、情報をしっかり集める(後述)ということと、意思決定の質を高めるという2つかと思いますが、これらを踏まえながらとにかく目の前にあることを進めることの積み重ねだと思います。

たまには進んでいる方向性をメタ的に見つめ直して「長期の戦略」みたいなものを考えるべきですが、情報が限られているなかでそれを長く考えても意味はなく、時間でいうとせいぜい5%を費やして、残りは目の前のことにフォーカスすべきでしょう。

B向けのサービスに限定した話かと思いますが、それをすばやく徹底してできないと「主力アイデア」を他の人が先にやってしまうか、そもそも無価値なものを「主力」と思ってしまうのではないでしょうか。

起業前や起業後で参考になった/今も参考にしている書籍・情報源・記事などがあれば教えてください

上記で、「(主力アイデアに至るまでの変遷として)特定のエピソードがあるわけでもなく」と書かせていただきましたが、この質問についても同様で、特定の何かが特に参考になるということはないと思います。

つまり、過剰に一般化しているかもしれませんが、起業をするとか事業をやるということは非常に複雑性が高く、個別性が高いことなので、ここで列挙できるような特定の書籍や記事がそれだけで参考になるということはあまり多くないのではないかと思います。

むしろ私たちは、何か意思決定する際には、いままで見聞きしてきたすべての情報を参考に直感的に大まかな絞り込みをし、その後特に関連する情報を元にロジカルに考えてきました(1)。

このような意思決定を支える情報として重要なのは、一部の人しか触れることができない、生の情報です。これらは人からしか得られず、しかも多くの場合トップティアの人たちからしか得られません。 特に私たちのように、複雑性の高い業界を技術で良い方向に変革したいという場合、業界のリアリティを理解していないと、まさに技術の押しつけとなってしまいます。よって、業界の方々から多くを学ばせていただいて、既存の業界と協業することが極めて重要です。

そのためには、見込んで頂いて、期待を上回るいい仕事をして、信頼して頂いて、また人をご紹介頂く、という仕事上の正のループがあると思いますが、これに尽きると思います(2)。 これは全員ができるわけではないので、たとえば業界をどれだけ理解しているかというところで差がついてきて、プロダクトや会社のもたらすインパクトに直結します。

一方、起業をする上で常識となる教科書的なビジネス書・記事はいくつかあり、それらはすでに(他の「東大起業家へのインタビュー」を含め)様々な場所で紹介されています。これらの本は、言い換えると、とりあえずそこに書かれている中身は当然のごとく知っているべき、というような本なので、とりあえず読むべきだと思います。

私個人としては、ビジネス書や記事等は生情報のクリスタライズに使うか、自分とは異なる言語化を見つけるために使っています。

例えば、(1)の部分は将棋の羽生善治先生の「大局観」と通じるところがあると思いますし、(2)の部分は磯崎哲也先生の「起業のファイナンス」に述べられている「イケてるソーシャルグラフに属すべき」という話と似ていると思います。これらの本を読む以前から、経験の集積としてモヤモヤと似たようなことを思っていたり、別の言語化で捉えていたりしていましたが、クリスタライズされたものを読むとモヤモヤが言語化されたり、異なる言語化として捉え方に広がりが生まれ、非常に参考になりました。逆に実体験としてないままビジネス書のクリスタライズされた文を読んでも、今ひとつ理解ができないのではないかと思います。

将来の東大卒業生起業家に向けて、応援のメッセージをお願いします

これまで、東大生が多く就職してきた業界や会社は、N年後に没落してきたという悲しい風潮があるので、東大生の多くが起業し始めたらどうなるのかやや不安に思います(念の為書きますが、冗談です)。

真面目な話をすると、私は修士を取ったあとすぐ起業したわけですが、いま概ねとても楽しく仕事ができています(多少のストレスはかかりますが)。

今は資金的にも人材的にも起業がしやすくなっていますので、ぜひ起業を進路の選択肢に入れてみてください。

様々な領域での様々な形態の起業がある中、東大生は(1)も(2)も得意な方だと思いますので、それらが活かせる領域・形態だとやりやすいのかなと思います。具体的にはB向けサービスです。こういった領域・形態ではいきなり起業をしても難しい場合もあると思うので、いきなり起業をするのではなく、一旦弊社のような既存のアーリーベンチャーに入ってみるのも手かもしれませんね :)

プロフィール

2015年理学部情報科学科卒、2017年情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻修了後、株式会社Legalscape創業。2017年未踏アドバンスト採択。


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