増田 祐一様 (Fellows Program)

May 16, 2022

現在のアイデアについて簡単に教えてください。

安全で広範囲な無線給電技術を用いることで、電動マイクロモビリティの充電を自動化するソリューションを研究開発しています。

もう少し詳しくお話すると、カーボンニュートラルや少子高齢化による労働人口減少を背景として、今後は電動キックボードやサービスロボットといった電動マイクロモビリティの普及が予想されます。こうした電動モビリティの普及のためには充電インフラが不可欠です。しかし現状では人力で電池を交換したり、接触の充電ステーションであるがゆえに屋外での充電が難しかったり、充電ドックが場所を取ったりといった充電インフラ特有の課題があります。

私が研究している技術では、薄いシート状の伝送媒体を敷くだけでそのシートの上ではどこでも無線充電ができるので、そうした課題の解決に繋がらないかなと考えています。 また、このシートは敷設が簡単で場所を取らず、かつシート同士を連結させていくことで給電範囲をアジャイルに拡張できます。そのため高精度な位置決めが不要で、シートの上に端末を雑に置くだけでいいので使い勝手がいいですし、複数の端末を詰めて配置しても大丈夫なので、土地の有効利用にも繋がるかと考えています。

取り組む課題を電動モビリティの無線給電に絞った理由を教えて下さい。

一つの理由は、人力で電池の交換を行うという点で充電が仕事になっているからです。海外のキックボードシェアサービスなどでは、街中に乗り捨てられている電動キックボードのメンテナンスや電池の交換に売り上げの半分近くが使われているという現状があります。それらを自動化することにはかなり価値があると感じて、電動キックボード・電動マイクロモビリティにターゲットを絞りました。

また、ヒアリングをする中で無線給電に対して「早く製品化してほしい」といった好意的なコメントを電動マイクロモビリティ系の方からいただくことが多かったということも背景としてあります。

そもそも、どういったきっかけで無線給電技術に取り組もうと考えられたんでしょうか?

このアイデアは私が所属する篠田・牧野研究室で長年研究開発が進められていた2次元通信という技術を基盤としています。この技術は、シート状の伝送媒体に電磁波を閉じ込めて、そのシートの上に置かれた特殊な端末のみがシートの中の電磁波にアクセスして通信や給電を非接触で行えるようになるという技術です。

大学院の入学当初にこの技術のデモを見たときから、これを進化させれば何か面白いことができそうだ、と思ってここまで8年間にわたって2次元通信関係の研究に取り組んできました。 これまで2次元通信技術をベースにいろいろなアイデアに取り組んできましたが、4年前にとある企業さんからこの技術で電気自動車に充電できないかというコメントをいただいたことがきっかけで、そこから特に無線給電にアイデアを絞って研究開発を続けています。それも最初はできるわけがないと思ってダメ元で始めてみたんですけど、案外できそうだとわかってきて、今では無線給電の研究開発にフルコミットしています。

8年間もこの技術の研究に取り組んでいらっしゃるのには理由があるのでしょうか。

ずっと苦しくはありました。正直なところ、技術的には面白いけれど結局どこで役に立つのかわからないという状況が続いていました。ただ本質的に他の技術とは明確に違うこの技術特有の面白さを感じていて、いつかは何かあるだろうという可能性だけでやってきた感じがします。

今まで振り返って一番困難だった点はどのようなものでしょうか?

研究の困難さですと、2次元通信の技術はそもそも机の上の小さなデバイス向けの技術だったので無線給電といっても、机の上程度の給電範囲しかなく、しかも送れる電力も数ワットです。そのため、これを動くロボットやキックボード向けに進化させるという点が技術的に大きな課題でした。この課題は送電シートの構造や扱う周波数など、根本的な部分を一から見直して克服できましたが、最初はミニ四駆を数センチ動かすこともできないくらい駄目でした。いろいろと試すうちにどうすればうまくいくのかがだんだんとわかってきて、今では数百ワットの電力も送れるように改善されてきています。

ヒアリングの困難さですと、最初はヒアリングするまでの過程が困難だったと思います。誰に聞けばいいのか、そのどういう分野でどういう人にアプローチすればいいのか、という点が不安でした。いままで研究にばかり取り組んでいたので、ヒアリングの最初の一歩目を踏み出すところは不安でしたが、それに関しては FoundX のスタッフから FoundX のサポーターの方たちを紹介いただいたり、ヒアリング相手候補を提示いただいたりしたことがめちゃくちゃ役に立ちましたね。

なぜヒアリングの最初の一歩目を乗り越えることができたのでしょうか。

Fellows Program で毎週、全員が他のメンバーに今週やったことを発表しますよね。それはかなり原動力になっています。

仮に FoundX に所属せずに、 FoundX のオンラインのコンテンツだけをやって、ヒアリングしなきゃなと思って一人でヒアリングしに行ったかと言われると多分、それはやらなかったはずです。他のメンバーがヒアリングをやっていて、しかも自分も何か発表しないといけないという状況にあったからこそ、積極的にヒアリングや開発を進めていけたのかなと思います。

また、毎週のミーティングで自分と同じフェーズのメンバーがどういうふうにヒアリングしたかとか、そのヒアリングの結果がどうだったかを知ることになりますよね。その中で、こんな感じでやればいいんだな、と知ることができたり、なかなかいい質問ってできないよね、と共感したりするなかでヒアリングまでの気持ちのハードルが下がったと感じます。

今回採択された助成金には、アイデアのどのような点が評価されたとお考えでしょうか。

そうですね、二つあると思っています。一つは技術的な実績があったこと、もう一つは事業化に向けてヒアリングをしていたことだと思います。 これまでの研究開発で、安全で広範囲な無線給電技術の実現可能性調査がデモ機の開発を通じて完了していまして、何ができて何が今後の技術的な課題なのかということが明確に見えている状態でしたので、そこは良いポイントだと思っています。

もう一つは、問題視している課題というのが本当に解決すべきものなのか、無線給電技術はそういった課題解決に対してどの程度有効なのかといったところを審査員の方に説得力ある形でお伝えするにあたって、電動マイクロモビリティ業界の方へのヒアリング結果をプレゼンに盛り込めたという点が良かったと思います。

これまで科研費などの競争的な研究費に応募したことはありましたが、スタートアップ向けの助成金はそれとはちょっと雰囲気が違うなと思いました。スタートアップ向けの助成金では、技術的な新規性や有用性に加えて、課題の大きさとその課題の確度にも結構重きを置かれているという印象があります。ヒアリングを進めた結果、それらの点をカバーできたということが助成金に採択された要因になっているだろうと感じます。

また、このアイデアは事業化やPoCの可能性が高く、助成金が終わった後も続いていきそうだという点も評価されたようです。助成金を出されている方も、助成金を出したアイデアがちゃんと事業化に繋がることを望まれていると思います。そのため、「ぜひこの技術ができたら一緒に実証実験をやりましょう」などのコメントをヒアリング結果として書いたことが好印象だったのだと思います。

助成金獲得に向けて活用したものや役に立ったものはありますか?

FoundX のサポートを通じていろいろな業界の方とのヒアリングの機会をいただけたことがかなり役に立ったと思います。特に、電動キックボードのシェアサービスを手がけている方とのヒアリングでは、彼らが何を重要視してビジネスを行っているか、無線給電技術に対してどういう考えを持っているのかといったことを伺うことができました。そこから、今後どのようなプロダクトを開発していこうか、どのように事業を展開していくべきかをより具体的にイメージできるようになりました。

また、助成金が何を目的としているのか、どういったバックグラウンドの方たちが審査されてるものなのかということについては、過去の採択例や募集団体が行っている取り組みを読んでチェックしました。当たり前ではあるんですけど、例えば野球選手を応募してるところにサッカーが得意ですと言ってしまっても通らないだろうなと思ったので入念に調べました。スタッフとの壁打ちのときにもスタッフからこの助成金にはこういう点を書くとよい、といったコメントをいただいたのでそれも活かして助成金にフィットした申請書が書けたかなと思います。

FoundX に応募された経緯について教えていただいてもよろしいでしょうか。

FoundX の Online Startups School を受講していたことがきっかけです。 元々、自分の研究テーマで何か新しいことや事業を興せないかと漠然と考えていたので、オンラインスクールは考えを整理するのにとても役に立ちました。そこから、FoundX が提供する Y Comibnator の翻訳記事とオンラインコンテンツを徐々に見ていくうちに、プログラムへ応募してみようかなと思うようになりました。

プログラムの中で特に良かった点がもしあれば教えてください。

オンラインコンテンツで自学自習できるっていうのはもちろんなんですけど、起業を目指す人や既に起業されている方と定期的に意見交換できる機会が得られたことが一番良かったと思います。

もちろん自分のアイデアがブラッシュアップされるというのもありますし、やっぱり強い信念を持って何かに取り組んでる人たちを見ると自分のモチベーションもかなり上がりますし、これは本当に所属してよかったなと思うところです。 あとは繰り返しになりますが、ヒアリング相手を多く紹介していただけることはめちゃくちゃ助かってます。

いままで何人くらいの方へヒアリングをされましたか。

FoundX のサポーターの方たちと、さらにそのサポーターから繋がっていった方たちの人数を考えると、きちんとカウントしたことはないのですが、大体 30人くらいかと思います。

今後、プログラムに期待する点を教えていただけないでしょうか?

今は最初の顧客になってもらえる方を探している、いわば、より課題を深堀りしていこうという段階です。顧客の課題は研究室で1人で考え込んでてもひらめくものではないので、多くの方にヒアリングを行うことが重要なはずです。これまでに多くのサポーターの方を紹介していただいたことで、課題の解像度がどんどん上がってきておりますので、引き続きその活動を続けていけることを期待してます。

Fellows Program はどんな方へおすすめでしょうか?

ご自身の研究やスキルを社会的な課題解決に役立てることに興味がある方におすすめしたいと思います。

僕自身は2〜30人の方へヒアリングをして、やっぱり自分の論文に書く課題・解決策と、実際に誰かがお金を出してでも欲しくなるような課題・解決策には結構な開きがあることを感じています。そのギャップを埋めることはとても大変ですが、それと同時に、多分そのギャップを埋めることは、この技術にひたすら取り組んできた僕にしかできないのではないかと考えています。研究とは違ったやりがいを感じることが間違いなくできますので、興味のある方はぜひ応募してみてください。

研究とは違ったやりがいとはどういったものでしょうか?

僕の中では、研究のやりがいって、技術的にどれだけ新しいかにひたすらフォーカスできることだと考えています。もちろん論文に技術の社会的背景は書きますけれど、やっぱりメインは技術的な新しさや技術がどう素晴らしいか。

それはそれで面白いんですけれど、今まで自分がひたすらフォーカスしてきた技術が本当に人の役に立つのか、役に立つのはどういうシチュエーションか、どういう人が困ってるのかということの解像度を、その内容だけで1本資料が作れるぐらいまでどんどん上げていくという作業を通じて自分が社会の役に立っている実感、役に立てるかもしれないという実感がより具体的に湧いてくるのがいいところですね。

研究の方は、誰も思いついてないことを見つけた、とか、これを発見した俺はすごい、といった楽しさがあるんですけど、事業化を考えるときには自分がやっていた研究や自分自身がすごく役に立ちそうだと明確になってくるように思えます。うまく言語化できないんですが、今までやってきた研究を肯定できるように感じられてすごくいいです。

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