Letter to Applicants / 候補者への手紙
FoundX では東京大学関係の起業家たちが、アイデアを見つけ (find) 、見つけたアイデアから創業する (found) ステップを支援する、スタートアップのためのインセプションプログラムです。
このページは FoundX のプログラムに応募を検討している方々や、スタッフとして働こうと考えている方々に向けた手紙です。このレターを通して、
- 私たちがどのような点に着目して起業家の皆さんを採択するのか
について簡単に解説することで、候補者の皆さんと私たちとのお互いのマッチングを事前に確かめられるようにしたいと思っています。
Summary
このドキュメントでは以下の3点に関してお話ししています。
- 私たちは起業家チームの Δ を見て採択を判断します。
- 私たちは「大きな課題」「No. 1 のテクノロジ」「マーケットリーダーになる可能性」のうち、少なくとも1つの項目が尖っており、もう1つの項目に関する洞察を持っている
- 私たちは「Pay it forward 💝」「Start with impact 🌄」「Focus and intensity 🎯」「Be a learning animal 🐗」のバリューを共有してくれる起業家チームを求めています。
Δx
私たち FoundX では、どのような起業家やどのようなアイデアを求めているのでしょうか?
この質問はベンチャー投資の世界で良く耳にする質問にも置き換えられるでしょう。つまり、「Team? Product (Idea?) Market? 」、あるいは「Jockey(起業家)? Horse(プロダクト)? Market(市場)?」という質問です。
これら3つの要素はすべてが大事です。しかし「すべてが大事」というのは答えになっていません。だから一つの方針として私たちが見ている視点をお伝えしておきます。
私たちが最も見るものは「Δx」、差分です。
特に「ΔProduct」のベクトル、つまりプロダクトやアイデアの改良スピードや改善率を最重視して見たいと思っています。
プロダクトの改良スピードはチームの良さを表します。素晴らしいチームは僅かな期間の中でもプロダクトを劇的に改善させます。まだアイデアだけの状態でも、僅かな期間でアイデアの解像度を明瞭にし、仮説検証を行ってプロトタイプを作ります。
私たちはΔxのベクトルを通して、チームとチームの学習スピードを見ます。成長の度合いと速さを見ます。良いチームでさえあれば、何度も繰り返し挑戦をする中でマーケットを見つけることもできると思っています。
アイデアも起業家としての能力も、どちらも徐々に形作られていくものです。最初から完全な人はいません。そして私たちも完璧な起業家を求めているわけではありません。だからこそ、私たちはその成長度――Δを重視して、起業家の皆さんのアイデアや資質を見ていくことができればと思っています。
私たちは2か月、3か月のタイミングで常にプログラム参加者を募集をしています。もし一度不採択になったとしても、その期間での改善率と改善の方向性(Δx)を示していただければ、次回は採択されるかもしれません。だから仮に一度不採択になったとしても、タイミングが合えば継続的に応募いただきたいと思っています。
Idea & Product Sought by FoundX
FoundX のいくつかのプログラムでは、既にアイデアを持った起業家を募集しています。
起業家もそうであるように、アイデアもまた徐々に形作られていくものです。そのΔの方向性が、私たちの求める方向性と合致しているのであれば、私たちはそのチームを積極的に応援したいと思っています。
最も重要なのは人々が欲しがるものを作ること (Make something people want) です。しかしそれだけでは短期的なユーザーのニーズにフォーカスしてしまいます。
私たち FoundX のミッションは、すべての人々にゆとりを作ることです。そこで方向性をある程度定めたうえでアイデアを募集したいと考えています。具体的には、以下の 3 つの条件を満たすものです。
- Make Something People Want を満たすもの
- ゆとり (scholē) を作ることにつながるもの
- 私たちの重点的なテーマに合致するもの
特に以下の項目のうち、少なくとも1つの項目が尖っており、もう1つの項目に関する洞察を持っていて、かつ短期での急成長が可能なアイデア(=スタートアップのアイデア)を優先的に採択しています。この条件を通して、私たちは将来的にすべての人たちにゆとりを生み出したいと思っています。詳細は私たちのミッションをご覧ください。
▶ Big Problem with High Resolution - 大きな課題と顧客の課題への高い解像度
大きな社会的課題や将来的に大きくなる社会的課題、もしくは実現の難しい課題に取り組むアイデアを求めています。気候危機などの大きな課題でも、分解していけば解決可能なものになり、一つが解決すればその周辺領域も徐々に解決可能になるはずです。そしてその第一歩となる目の前の顧客の課題をクリアかつ簡潔に説明できるぐらい、高い解像度を持っていることを望んでいます。私たちはそのような大きなビジョンを持ちつつ、目の前の解決可能な課題に取り組むチームを支援します。
大きな課題の例
- SDGs の Indicatorに資する取り組み
- 被規制分野(規制があるということは、何らかの社会的影響があり、正しく解決すれば大きな影響を与えられる)
- LTSE 等の FinTech 周りの取り組み
- ヘルスケアや教育、農業に関する取り組み
- 暗号やセキュリティ、生体認証など
- 地域での社会的課題(かつ他地域への展開可能性があるもの)
- 気候危機や環境、緑化など、グローバル規模の課題
- 食糧や水資源、石油やエネルギー、鉱業など、普遍的な問題
- 生命や寿命に関する課題
- 複数のセクターにまたがる課題
- 新たな文化を生み出す課題
- 社会人教育に関する課題
- コミュニティやソーシャルキャピタルに関する課題
- 共助や社会保障など、かつては公的機関が担当していた諸課題
- 「NPOであってもやりたい事業だけれど、急成長のために株式会社という手段を選んだ」という場合
- Y Combinator などが掲げる課題(e.g. Y Combinator からスタートアップへのリクエスト)
▶ No1. Technology - 優れたテクノロジ
将来的に、世界で一番のテクノロジとなりうる可能性を秘めるアイデアを高く評価します。また、各種テクノロジの開発支援ツール・サービスなども積極的に支援したいと考えています。またテクノロジはスケールしたときに会社がとても大きくなる可能性があると考えており、三つの要素の中でもテクノロジの尖ったチームは高く評価される傾向にあります。
テクノロジの例
- ソフトウェアの一部領域での独自性
- ディープテックなどと呼ばれる領域の技術での独自性
- 特定の産業領域(小売など)において、ソフトウェアに最適化した垂直統合を行う
- 特定領域でのソフトウェア開発ツール
▶ Market Leader - 優れた戦略とビジネスモデルの構想
類まれな戦略を有し、それを実現するためのビジネスモデルがあるうえで、将来的に世界の市場のリーダーとなる道筋が見えるような、そんなアイデアを求めています。リーダーになるつもりで挑まなければ世界のシェアの 20% 程度を採ることも覚束ないでしょう。独自の戦略のない、どこかにあるサービスのコピーはリーダーとなることが難しいため、採択の対象となりません。
リーダーの要素の例
以下のいずれか1つ以上を持っているアイデアがリーダーとなる兆しを持つと考えています。
- 占有的な技術
- ネットワーク効果
- 規模の経済
- ブランド
- 複雑な組み合わせと調整
- ディストリビューション
- 規制
- 今はまだ小さいけれど急激に成長している市場(年率20%など)
私たちが避けるアイデアについて
以下のようなアイデアは、スタートアップのアイデアであっても私たちの支援の対象とならない可能性が高いです。応募の前に今一度ご確認ください。
- 労働者が不利な状況におかれる、ギグエコノミーを推進するアイデア
- キュレーションメディア
- 人材派遣業や人材紹介業
- クラウドファンディング
- クラウドソーシング
- 人の手だけで行えるビジネス
Entrepreneurs Sought by FoundX
FoundX では、起業家の現在のフェーズに合った複数のプログラムを提供し、これから起業家になるアントレプレナーたちを求めています。
私たちのアントレプレナーシップの定義は「自らのコントロール可能な範囲を越えて好機とリソースを追い求め、社会の課題を解決することにより新たな価値を創造して、それを維持可能な形で提供し続ける」というものです。この条件を満たしたうえで、FoundX では以下のような方々を主に支援していきたいと考えています。以下の項目が自分に当てはまるか自信がないという人もいるかもしれません。しかし皆さんが目指すΔの方向性が私たちと合致していれば、私たちはそれを評価したいと思っています。
▶ Pay it forward 💝 - 恩送りをしよう 💝
起業家同士がアドバイスをしあい、助け合い、時には知り合いを紹介しあうことなどを通して、恩送りをしてくことを期待しています。また将来の起業家に対しても可能な範囲で恩送りをする、そうした人たちの集まりにしたいと思っています。また、自分自身がヒーローになりたいという人ではなく、自分の周りの人やチーム、社会、集団としての成功を求めている起業家を私たちは求めています。
具体例
- 定例ミーティングでの起業家からのAskリクエストを毎回伺います。そこで起業家同士がアドバイスを与えあうようにしてください。
- サポーターから Pay it forward を受け取った時には、適切に対応してください。
- 傍にいる起業家が困ってそうであれば、積極的に声をかけてあげてください。
▶ Start with impact 🌄 - インパクトから始めよう 🌄
ビジネスの最終的なゴール、大きなインパクトから考え始めて、日々の活動を行うことを推奨しています。そうすることで、より大きな活動やモチベーションの維持を図ることができます。また大きなインパクトから始めることで、多くの支援者を巻き込むことも可能になります。
具体例
- 頻繁にインパクトについて(恥ずかしがらずに)話しましょう。
- 自分たちのミッションやビジョンのエバンジェリストになってください。
- バックキャストしながら日々の活動を組み立ててください。
- フィードバックは大きなゴールの達成に欠かせないものです。うまく受け止めてください。
▶ Focus and intensity 🎯 - フォーカスと強度 🎯
スタートアップにはフォーカスと強度が重要だと言われています。私たちは十分なフォーカスができている起業家を探しています。
具体例
- OKRという手法に従って、ゴールを四半期に一度定めてください。そしてその進捗を起業家同士でお互いにチェックして支援してあげてください。
- イベントやプレスリリースなどには労力をかけず、製品開発と顧客との会話に時間を傾けてください。
▶ Be a learning animal 🐗 - ラーニングアニマルになろう 🐗
「セールスアニマルになれ」というのはしばしばスタートアップで聞く言葉です。セールスアニマルはまるで野生動物のように、売り込んでくる人です。私たちは動物のように物凄いスピードで成長(Δ)をしたいと考えている人を求めたいと思っています。
具体例
- 学んだことを振り返るよう促すプログラムに参加して、自ら経験学習を促してください。
- 周りの起業家のベストプラクティスや進め方を見て、学べるところを学んでください。そしてその起業家にたくさんの質問をして身に着けてください。
- お勧めする書籍や記事の中で役に立ちそうなものを何度も読み込んでください。
What We Don’t
私たちは従来とは異なるやり方でスタートアップを支援します。そのため、以下のようなことは行いません。
- Event: 私たちは定例を除き、イベントやミートアップを行いません。そうしたイベントは別組織の皆さんが行っているからです。そのため共同イベントなどについても基本的にお断りさせていただきます。代わりにオンラインでの情報提供 (FoundX Review など)を行います。
- Mentoring Program: 私たちは外部の方を招いたメンタリングを行いません。代わりにピア起業家同士のピアメンタリングや、サポーターからのサポートオフィスアワーを行います。
- Pitch: ピッチイベントはしません。
- Seminar: 長時間の講義スタイルはしません。代わりにマイクロラーニングのためのコースを提供します。ただし資金調達の講義などには注力しません。代わりにコミュニケーションやチームに関する小さなワークショップを行います。
- Technical Advice: 私たちは技術的なアドバイスを行いません。チームは既に技術の実装ができる前提で採択します。代わりに実装を楽にするための様々なツールの紹介を行います。
- WIP: 私たちは多数の活動を行いません。逆に私たちはWIPの制限を行います。