株式会社タンソーバイオサイエンス 小笠原英明様 (2003年博士卒)
現在の所属と肩書
株式会社タンソーバイオサイエンス 代表取締役
卒業(修了)した学部(研究科)・学科(専攻)・年
- 1995年 医学部医学科卒業
- 1995年 医学部附属病院にて1年間臨床研修
- 2003年 大学院医学系研究科分子細胞生物学専攻博士課程修了
現在の事業について簡単に教えてください
当社の事業は画期的な試験法を用いて新薬開発に貢献することです。2019年夏に東京大学から国際特許を出願し、いよいよ営業活動を本格化させました。
植物から脊椎動物まで、細胞の表面にはGタンパク質共役型受容体 (GPCR) という、細胞外の刺激を細胞内に伝えるタンパク質が存在します。ヒトの体全体には約800種のGPCRがあり、うち200種以上が血圧、糖代謝から精神活動まで全身のあらゆる生理機能を制御する重要な機能を担っています。このためGPCRは薬物療法の標的として魅力的であり、実際、現行医薬品の約4割はGPCRに作用しその機能に影響を与えることで治療効果を発揮すると言われています。しかし、GPCRに対する化合物の作用を評価する従来の試験法には難点が多く、多くのGPCRが治療標的としての開発から取り残される一因となっています。
最近、これまでにない優れたGPCR活性試験法が東京大学医学部にて発明されました(特許出願中)。従来法と異なり、あらゆるGPCRの活性を高感度に低コストで評価できることが主な特徴です。当社はこの技術を用いて医薬品候補化合物のGPCR活性を網羅的に評価し有効で安全な化合物を選び出すことで、GPCR創薬の可能性を大きく広げ、新薬研究開発を加速します。
起業のアイデアに至るまでのエピソードを簡単に教えてください
私がチームに加わった時、発明を創薬に活かすという基本路線が既に固まっていました。15年以上に渡り日米でGPCRの研究に取り組み試験法を発明した共同創業者2人が温めていたアイデアです。
共同創業者とどのように出会い、なぜ共同創業をすることになったのかを教えてください
3人で創業しました。私以外の2人は15年以上に渡り日米で協力してGPCRに取り組んできた研究者です。うち1人は私の医学部同級生であり、臨床研修1、2年目の同僚でした。元同級生を中心に3人が集まったのが共同創業のきっかけです。
数年前、私は製薬企業で米国東海岸ベンチャー企業との新薬共同開発プロジェクトに携わっていました。頻回の出張やweb会議のたびに先方の強引なほどの熱意に圧倒されてばかりで、次第に、起業が人をそこまで突き動かすものならば自分もいつかスタートアップ側に立ってみたいものだ、どこかに起業の種がないものだろうか、と考えるようになっていました。
丁度その頃、新発明の試験法で創薬関連の事業を立ち上げる案について、元同級生から製薬業界人として意見を求められることがありました。技術の説明を聞くなり、新薬が生まれにくくなっている業界のペインを解決する画期的技術だと確信し、仲間に加わることを決意した次第です。
起業前や起業後で参考になった/今も参考にしている書籍・情報源・記事などがあれば教えてください
- Innovation — From Creativity to Entrepreneurship Specialization: イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のMOOCsです。
- トクロンティヌス作「コーヒーショップライフテクノロジーズ」: 事業の構想を練っている頃に読みました。生命科学系の大学院生が逆境の中知恵を絞り会社を興していく小説です。参考になっただけでなく大いに勇気づけられました。
- Silicon Valley: ITスタートアップ企業が舞台のコメディドラマです。国や業界が違えど、創業者たちが難題に突き当たりあがきながら進んでいく様が他人事に思えません。
- 磯崎哲也著「起業のファイナンス」「起業のエクイティ・ファイナンス」
将来の東大卒業生起業家に向けて、応援のメッセージをお願いします
Steve Jobsがconnecting the dotsと言ったように、過去に学んだことが予想もしなかった形で繋がり大きな可能性が拓けることがあるので、与えられた状況でできるだけの経験と知識を蓄積しておくのが大事だと感じます。私の場合、臨床での経験、博士課程のテーマがGPCRだったこと、研究に用いる必要があり習得したプログラミング、製薬企業に勤め米国バイオテック業界を垣間見たこと、医薬業界で生き残るためなんとなく始めたMBAの知識が、起業してみると全て役に立っています。
起業にあたっては、信頼でき何でも話し合える仲間でチームを固めることに尽きると思います。家族の理解と協力も不可欠です。また、「諦めたらそこが終点」なので、会社勤めを続けながら夜や週末の副業から始めてみる、といったリスクを許容範囲内に収め長く続けるための方策を考えるのがいいでしょう。